ドライバーレポート【4】
平成28年3月某日
「ロシアですか?」
私は思わず聴き直してしまった。
中国のお客様からの“女体盛り”のご要望は多いが、ロシアからのお客様は、
初めての経験である。
生ものである“刺身”は召し上がるのか、お座敷で正座は出来るのかなど、
色々な疑問が沸き上がってくる。
ま、しかし、ご注文があったわけで、それに対応すればよいだけだ。
心配するより、当たって砕けるしかあるまい。
コンパニオンを乗せて木更津へ向かうアクアトンネルの中で、携帯が鳴る。
事務所からだ。
「お客様から今電話があって、開始時間を30分早めたいとのことです」
それじゃ、急いで行かないと盛りつけが間に合わなくなる。
私はアクセルを踏み込んだ。
ホテルに到着し、盛りつけの準備を始めたのが18時30分。
エージェントに電話で到着時間を確認すると、19時前には着きそうだと言う。
それなら、もう盛りつけを始めなければ間に合わなくなる。
早速作業開始である。
果たして、19時6分前にエージェントから到着を知らせてきた。
準備万端である。さぁいらっしゃいてなもんである。
お客様グループをお座敷にご案内し、私はしばしエージェントと話し込んだ。
海外からのお客様のご案内を主にしているらしく、また紹介してくれるという。
ありがたいことである。
10分ほどの後、そこへR子が浴衣姿で出てきた。
「ど、ど、ど、どうしたの?」
「はい。寒そうだから、もう着て下さいって言われました」
「え?」
私は耳を疑ったが、まさに言葉の通りの意味であったらしい。
浴衣姿の盛り付け台は、シャワーのある部屋へ向かって行った。
彼女が宴会場に戻って更に15分ほど経過したとき、突然宴会が終了した。
お客様が部屋から出て来られたのである。
2時間分の宴会費用と、宿泊料金までお支払い頂きながら、たいそう勿体ない
ことであったが、コンパニオンの日当は、時給に換算すると4倍にもなる、
大盤振る舞いの晩であった。
ま、たまにはいか・・・
綾小路 誠