ドライバーレポート【2】


平成28年2月某日   

 東京スカイツリーの今夜の色は紫。江戸の粋を表現するとされるカラーである。
その東京の新名所に近い老舗割烹が、今夜の宴会の舞台である。



 お客様と思しき人影が割烹に入って行くのを、駐車場に停めたクルマの中から目で追いながら、
携帯電話の番号を入力し、発信する。
「○○様の携帯でしょうか。コンパニオン派遣の楽園でございます」
「ああ、お世話になります」
「ご宴会に先立ちまして、今夜の料金をお支払い頂きたいのですが、入口までお出まし頂いてよろしゅうございましょうか」
「あ・・・・、はいわかりました」

 何故か少々煮え切らないお返事に戸惑いながらも、入り口で幹事様の姿を待つこと5分。
時計を見ると宴会スタート時間を7分経過している。
コンパニオン達はすでに控室から宴会場に移動したらしく、黄色い声が聞こえてくる。
これはまずい。スタート前に料金を頂かなければいけないのに、なぜお出でにならないのだろう。不思議に思いながら、再度携帯電話をコールする。
「コンパニオン派遣の楽園でございますが・・・」

すると、「あ、悪りい悪りい、俺さ、急病で行かれなくなっちゃったんだよ。代わりの者が行ってるから、そいつからお金貰って。」
それならそうと、さっき何故言わないんだよ!と腹の中では怒りながら、
「かしこまりました。それでは早速会場に参りまして集金させて頂きます」と、おとなしく言う。



「弥生の間」の襖の前に跪き、声をかけて襖を少し開ける。
「楽園でございます。幹事様お願い出来ましょうか」
スーツにネクタイ姿の50歳前後と思われるビジネスマンが、立ち上がってやってきた。
「いやぁ、連絡がないからさぁ、どうやって支払ったらいいのか、困ってたんだよ」
おいおい、困ってたのはこっちだよという思いを隠し、笑顔で対応する。
何とか無事に集金を済ませ、食事に出かけることにした。

 駅前ビルのエレベーターを待っていると、一組の中国人カップルがやってきた。最近は中国人の観光客も多いが、こちらで生活している中国人も東京には大勢いる。先ほど立寄ったコンビニの店員も中国人だった。失業中の日本人が多い中で、仕事も中国人に奪われてゆくのだろうか。習近平政権が力を入れる領土拡大政策と相俟って、日本の安全保障と先行きに不安を感じるのは、私だけではないと思うのである。

 ビルの中の食堂で夕食を済ませ、再びエレベーターを降りると、隣のエレベーターから降りてきたのが先ほどのカップルであった。自動ドアの向こうはすぐに駐車場である。どんなクルマを使っているのか気になる。中国人は日本車の中でもトヨタのアルファードが最高級車と考えていると聞いたことがある。
そして、彼らが乗り込んだのは、まさしくそのアルファードであった。

 宴会は当初の予定通り180分で終了した。今夜のお客様もデリヘルのサービスをご希望であったらしく、コンパニオン達の感想を聞いていると、可哀想に思えて仕方がない。
街の灯が滲んで見えるのは、涙腺が刺激されたのかと思いながらクルマを進めるが、いつまでも
その症状が消えない。
そしてそれが、広く街を覆う夜霧であることに気付いたのは、深夜0時を回った頃であった。

                                 綾小路 誠

 

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